障害者雇用における除外率制度とは
除外率制度とは
現在の民間企業の法定雇用率は2.2%ですが、これをどんな業界にも一律に適用すると、中にはなじまない性質の職種もあります。一般的に障害者の就業が困難であると認められる業種については、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する「除外率制度」を設け、障害者の雇用義務を軽減していました。なお、国や地方公共団体の場合には「除外職員制度」といいます。
この除外率制度はノーマライゼーション※の観点や社会連帯の理念に基づいて、2004年に廃止されました。現在は、経過措置として当分の間、業種ごとに除外率が設定されていますが、今後廃止の方向で更なる段階的な引き下げ、縮小が予定されています。制度が廃止になった背景には、IT環境が整い、特例子会社制度や障害者雇用に対する助成金なども増えてゆく中で、以前は障害者の就業が困難だったとされる職種においても時代とともに職場環境が変わり、就業が可能になってきたためです。
業界ごとに5〜80%の除外率を設定
現在の除外率は2010年7月に一律10ポイントの引き下げが実施された数値で施行されています。除外率は、船舶運航事業が80%と一番高く、道路旅客運送業や幼稚園、小学校などの教育機関が目立ちます。2010年以降の引き下げが行われていない理由に昨今の経済情勢を踏まえてもありますが、法定雇用率の引き上げも段階的に行われていることが理由として挙げられます。
「法定雇用率とは」で触れたとおり、現行制度での法定雇用率は現在の2.2%から、2021年4月より前に2.3%に引き上げられることが決定しています。現在、精神障害者も制度対象に加えられたことによる法定雇用率引き上げの影響を緩和するための「激変緩和措置」が導入されていますが、こちらの適用期限も2023年4月までとなっています。
厚生労働省の労働政策審議会は、2019年2月に障害者雇用分科会からの報告を受けて、厚生労働大臣に対して今後の障害者雇用施策の充実強化についての意見書が提出されました。その意見書によると除外率に対して、「特定の業種の障害者雇用に対する意欲を削がないようにするためにも、現在適用されている除外率の更なる引下げについては慎重に対応すべきとの意見も多い」とあります。
特定の業種における障害者雇用の実態把握を行い、諸外国の事例なども調査していきながら、引き続き除外率の廃止に向けては慎重に検討されています。
<除外率設定業種及び除外率>
0%:有機化学工業製品製造業、石油製品・石炭製品製造業、輸送用機械器具製造業(船舶製造・修理業及び船用機関製造業を除く。)、その他の運輸に附帯するサービス業(通関業、海運仲立業を除く。)、電気業、郵便局
5%:非鉄金属製造業(非鉄金属第一次製錬精製業を除く。)、倉庫業、船舶製造・修理業、船用機関製造業、航空運輸業、国内電気通信業(電気通信回線設備を設置して行うものに限る。)
10%:窯業原料用鉱物鉱業(耐火物・陶磁器・ガラス・セメント原料用に限る。)、その他の鉱業、採石業、砂・砂利・玉石採取業、水運業
15%:非鉄金属第一次製錬・精製業、貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く。)
20%:建設業、鉄鋼業、道路貨物運送業、郵便業(信書便事業を含む。)
25%:港湾運送業
30%:鉄道業、医療業、高等教育機関
35%:林業(狩猟業を除く。)
40%:金属鉱業、児童福祉事業
45%:特殊教育諸学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く。)
50%:石炭・亜炭鉱業
55%:道路旅客運送業、小学校
60%:幼稚園
80%:船員等による船舶運航等の事業
※ノーマライゼーション(normalization):高齢者や障害者などを施設に隔離せず、健常者と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方。また、それに基づく社会福祉政策。1950年代、バンク・ミケルセン(デンマーク)らが関わっていた、知的障害者の家族会の施設改善運動から生まれた理念。障害を持っていても地域社会で普通の暮らしを実現する脱施設化など、社会環境の変革に寄与した。国連の国際障害者年(1981年)を契機に認知度を高め、現代の社会福祉の基本理念となった。